◆代理店担当の新人営業は何に困っていたのか?
文学部卒の私が初めて入った会社は、国内資本の大手化学企業で、「グループ採用」でした。
当時は、「グループ採用」の意味も知りませんでしたが、「グループ採用」とは、「その企業グループの
どの会社に配属されるのかは、全くわからない」ということす。
配属されたのは、当時化学会社の中で勢いのあった「建材事業部門」でした。そこには製造部門と複数の
営業子会社があり、その営業子会社の営業職に配属されました。
その会社の営業は、いわゆる「代理店営業(パートナーセールス)」で、
「建材の製造部門(化学会社本体)→建材の営業会社→商社→代理店→設計事務所・ゼネコン・工務店→
施主(エンドユーザー)」 という商流です。
営業とは言っても建材の販売・施工をする会社(=代理店)の営業パーソンとの「同行セールス」であり、自ら切った張ったの修羅場をくぐることはクレームの現場を除いて、殆どありません。
このメーカーの営業職の仕事は、実は「代理店管理」と言われていたもので、「いかに多くの建材を いかに高く代理店に売るか」が本来の仕事で、代理店とメーカー営業(建材の営業会社)の間には、本質的にかなりの利害対立がありました。
「できるだけ高く売りたい」v.s.「できるだけ安く買いたい」また、「うちの製品を売ってほしい」v.s.「ウチが儲かる製品ならば どの企業のものでも良い=他のメーカーでも良い」ということです。
ですから、建材会社の営業職は、いわゆる「人間関係」「信頼関係」で代理店営業マンの心を掴み、自社製品が売れるように代理店営業マンのモチベーションを維持・強化し、自社製品を売る代理店同士の競合関係を調整して、メーカー(=建材会社)の市場シェアを拡大することが、仕事でした。
そのため、世の中で言う「営業パーソン」のイメージや仕事とは大分違うのが、実態でした。
そうした会社に配属された、メーカーの代理店営業の新人だった私がかなり困ったのは、本屋さんに営業
ノウハウの本を探しに行っても、「法人営業」に関して、「営業の型」のようなもの、「標準的な法人営業のスタイル」を教えてくれるものが、見つからないことでした。
「営業」のえの字も知らない新入社員に、会社が新人研修で教えた実戦的なことは、「名刺の渡し方」だけで、あとは全てOJTでした。
そうした「メーカーの新人」が相手にするのは、「メーカーからはできるだけ安く買いたい」「ゼネコンの現場所長との交渉に明け暮れ、数々の修羅場をくぐった、したたかな代理店営業マン」で、彼らはこの建材の採用に極めて重要な位置づけにある「設計事務所」を中心に営業します。
さらに、建材採用後の「ゼネコン・工務店」との契約交渉・施工・クレーム対応や、設計事務所・ゼネコン・工務店との関係維持までを彼らが一手に引き受け、様々な修羅場をくぐっています。
ですから、せめて「営業のやり方」「営業の基本」くらいは学ばなければ、「まるで実務の役に立たない、メーカーの新人営業」など、相手にされないと考えたのです。
けれども、売っているのは、クロージングを中心にしたセールストークやアポイントメント無しの飛び込み営業などに関するものが多く、殆どの本の中身は「個人」を相手にするものでした。
法人営業でも、当然相対するのは個人(一人ひとりの人間)なのですが、書かれているものは売ろうとする製品の価格や特性を無視した、表面的なセールストークばかりです。
「この業界向け」「この立場の営業パーソン向け」という視点からは、書かれていません。
個人向けの営業に関するものとしては役立ちそうでも、自分のお客様である「代理店(法人)とその営業
パーソン」を念頭におくと、当てはまらないものばかりでした。
また、直販営業(ダイレクトセールス)と代理店営業(パートナーセールス)にも根本的な違いがあり、
営業経験の無い当時の私には、役立つと思える本が見つかりませんでした。
これらの本は、ほとんどみな、「誰を相手に売るのか=お客様がだれか」に関して、個人も法人もその区別・違いを、無視して書かれていました。
これらは、「どんな商品やお客様にも通用するような営業テクニック」を書いているようですが、それでは具体性に欠けていいて、自分が知りたいことの答えは殆ど見つかりませんでした。
後になって気づいたのが、「法人営業には個人向けの営業とは異なること」がいくつもあり、法人営業では、その違いを克服できなければ(突破できなければ)、ビジネスにはつながらない、ということでした。
これは、私が外資系の大手ITベンダーに転職して、「ダイレクトセールスの業務に就くための”社内資格”」を得るために必須の「新人研修」を受ける過程で、痛切に感じたことでした。
一口に法人営業と言っても、その法人の規模の大小や、ダイレクトセールス(自分の所属する会社が、お客様と直接契約する)かパートナーセールス(代理店に自社の製品を「売ってもらう」=お客様と直接契約するのは、代理店)か、画一的なモノを売るのか・個別案件ごとに異なるソリューションを売るのかという、本質的で極めて大きな違いもあります。
当時の私は、代理店営業とはいえ、「営業パーソンのはしくれ」として配属されながら、自分が「営業のイロハ」も教育されていないこと、自分が社会人として余りにも無力であることに、困っていたのでした。
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