IT業界では、数年前まで「コンセプト」でしかなかった製品・サービスが、現実のものとして登場して急激に世の中に広がり、「当たり前・デファクト」になります。さらにそれらが、突然別のものに置き換わることも珍しくありません。こうした世の中を変える「革新」が、IT業界ではほぼ日常的に起きています。
例えば、AWS(Amazon Web Service)=クラウド、iPhone=スマートフォン、ChatGPT(Generative Pretrained Translator)=生成型AI などです。これらは、単に製品・サービスというよりも、ビジネスモデル自体・企業自体を作り出したと言えるほど、革新性が高いビジネスです。
Amazonは、楽天と同じ1997年の創業ですが、当時ウェブサイトで書籍を売ること自体が革新的でしたが、最近入社してくる新入社員の方は、ウェブサイトで買物ができない時代があったことすらも知らない方が多いのではないでしょうか?それは、今では、当たり前過ぎるビジネス・当たり前過ぎる日常だからです。
これほど変化の激しい業界は、IT業界のほかにはありません。しかも、IT業界に存在する製品・サービスそのもの、それらの背景にある設計思想(Architecture)・ビジネスモデルなどは、大半の部分がアメリカカで発明・開発されたもので、日本人はそれを追いかけることで精一杯です。
一方で、変化が緩やかなのが、当時の「土建業界」でした。それは、おそらく現在でもそれほど変わっていないと思います。
実際に私は、建材事業部門の営業会社から外資系ITベンダーに転職して10年後に、以前在籍していた会社のオフィスを訪ねましたが、オフィスのレイアウト・机や椅子・机の上にあるメモ用紙やメモ刺しまで以前のままで、「今日から復帰してもやっていけるんじゃないか?」と、時が止まった世界にいるような感覚を味わいました。
土建業界とは、大まかに言えば、「土木」=「港湾・橋梁・ダム・トンネルなどや、建物の基礎工事などと、地面の下全般を扱う」こと、「建築」=「ビル・倉庫・住宅など、地面の上全般を扱う」ことを合わせた業界です。
私自身は、建材事業部門の全国各地に作られた営業会社で、「建築」(JIS規格で「軽量気泡コンクリートパネル」とされる建材)を4年半、「土木」(JIS規格で「遠心力コンクリート杭」とされる建材)を3年経験して、IT業界に転職しました。
この土建業界当時の、会社としての悩み・課題の一つは、「なかなか新製品が出ない(開発できない・発売されない)」ということでした。これは、建築基準法・消防法など、様々な法規制や品質保証・公的認証の取得など、IT業界とは異なる難しさが背景にありましたが、10年に一度くらいの間に、一つの新製品・新工法が出るかどうか、という時代でした。
企業ですから、競合他社との競争に勝てる、新製品・新サービスの開発・発売が、常に望まれていましたが、それがなかなかできないのが当時の会社であり、土建業界の実情でした。
一方で、当時、大手外資系IT企業の社内では、新しい製品・サービスの発売や旧い製品・サービスの販売終了などの「ニュースレター」が年間1,000件ほど発行されている、と言われていました。
IT業界に転職した私は、毎朝、担当するお客様の大型汎用コンピューターに使われる「ハードウェア・ソフトウェア・サービス」に関して、関連するニュースレターが出ていないか、社内の端末からデータベースにアクセスして確認していました。また、重要な発表に関しては、紙のニュースレターも発行され、各人がそれを確認する仕組みになっていました。
これは、本当に天と地ほどの違いで、業界自体の違いにも驚きましたが、社内のデータベースにアクセスすれば、知識の無い新人営業であっても、歴戦の営業・SEと「同じ情報」を入手できる仕組みに驚嘆しました。
この社内システムがあれば、「新人とベテランの絶望的な知識・経験の差」を一気に無くしてくれて、少なくとも「同じ情報」には辿り着ける、情報に関しては「同じ土俵」に立てるわけです!